執筆: 山野 健太 / 公開: 2026年8月27日 / 更新: 2026年10月4日
滑車(かっしゃ)は、溝のついた円板にロープをかけて回転させる、とてもシンプルな道具です。中学3年の理科で、てこや斜面とともに「仕事の原理」の例として登場します。部品は円板とロープだけなのに、使い方しだいで「向きを変える道具」にも「力を半分にする道具」にもなります。この違いを順番に見ていきましょう。
定滑車(ていかっしゃ)は、天井や柱に固定されて、その場で回転するだけの滑車です。井戸のつるべやカーテンレール、旗を揚げるポールの上部についているのが定滑車です。
定滑車の役割は、力の向きを変えることです。ロープを下に引くと、荷物は上に上がります。「上に持ち上げる」というやりにくい動作を、「下に引く」というやりやすい動作に変換してくれるわけです。下向きなら自分の体重も使えるので、作業はずっと楽になります。
ただし、力の大きさは変わりません。10kgの水くみバケツを引き上げるには、10kg分の力でロープを引く必要があります。向きの変換だけを引き受ける、正直な道具です。
動滑車(どうかっしゃ)は、固定されず、荷物と一緒に上下に動く滑車です。滑車自体に荷物をぶら下げ、ロープの片端を天井に固定して、もう片端を引き上げます。
このとき、引く力は荷物の重さの半分で済みます。なぜでしょうか。動滑車にかかったロープを見ると、荷物の左右に2本のロープが立ち上がっています。荷物の重さはこの2本のロープが半分ずつ分担して支えているのです。人が引くのはそのうちの1本だけなので、半分の力で足りるという理屈です。
ただし、タダで得をしているわけではありません。荷物を1m持ち上げるには、2本のロープを両方1mずつ短くする必要があるので、ロープを2m引くことになります。力が半分になったかわりに、引く距離が2倍になる——てこや斜面とまったく同じ「力と距離の交換」がここでも起きています。
クレーンの先端をよく見ると、フックの上に滑車がいくつも重なっています。動滑車を増やして荷物を支えるロープの本数を増やすほど、1本あたりの負担は減ります。4本で支えれば力は4分の1、6本なら6分の1。そのぶんワイヤーを長く巻き取る必要がありますが、モーターにとって「弱い力で長く巻く」ことは得意なので、この交換は大歓迎なのです。
定滑車と動滑車を組み合わせれば、「向きを変える」と「力を減らす」を同時に実現できます。重い物を扱う機械の中では、ほぼ必ずこの組み合わせが働いています。
| くらべる点 | 定滑車 | 動滑車 |
|---|---|---|
| 滑車そのもの | 天井などに固定されて動かない | 荷物といっしょに上下する |
| 必要な力 | 荷物の重さと同じ | 荷物の重さの半分(1個のとき) |
| 引く距離 | 持ち上げたい高さと同じ | 持ち上げたい高さの2倍 |
| 力の向き | 変えられる(下に引いて上げる) | 変わらない(上に引く) |
| 得意なこと | 楽な姿勢・向きで引ける | 小さい力で持ち上げられる |
| 身近な例 | 井戸のつるべ、旗のポール、カーテン | クレーンのフック、エレベーター |
見分け方はシンプルです。滑車が動かないなら定滑車、荷物と一緒に動くなら動滑車。そして「楽になったと感じたら、そのぶんどこかで長く引いているはず」と考えると、滑車の問題は間違えにくくなります。
滑車の組み合わせが複雑になっても、見るところは1つだけです。動滑車を支えているロープが何本あるかを数えます。
必要な力 = 荷物の重さ ÷ 支えているロープの本数
引く距離 = 持ち上げたい高さ × 支えているロープの本数
100 N の荷物を 1 m 持ち上げる場合で並べると、次のようになります。
力が半分になるかわりに、ロープを引く長さは倍になります。どの段でも「力 × 引いた距離」は 100 で変わりません。てこと同じく、滑車も力を増やす道具であって、仕事を減らす道具ではないということです。
ただし現実の滑車では、軸の摩擦と滑車自身の重さの分だけ、必要な力は計算値より少し大きくなります。クレーンで何本ものロープが見えるのは、この損を織り込んでも十分に力を稼げるようにするためです。
動滑車の重さがある場合や、動滑車を2段に重ねた場合の解き方は、例題つきで滑車の問題の解き方にまとめています。
定滑車は軸が固定されていて、力の向きを変えるだけで大きさは変わりません。動滑車は軸ごと動き、荷物の重さを2本のひもで支えるため、引く力は半分になります。
ひもを引く長さが2倍になります。荷物を1m持ち上げるには、ひもを2m引く必要があります。力で得をした分を距離で払っており、仕事の量そのものは変わりません。
井戸のつるべ、旗を上げるポール、カーテンレール、エレベーター、クレーンなどです。向きだけ変えたい場所には定滑車、力を軽くしたい場所には動滑車が使われます。