公開: 2026年8月27日
指先の上でゆらゆら揺れながら、決して落ちないやじろべえ。細い一本足で立っているのに、押しても揺れるだけで戻ってきます。まるで魔法のようですが、種明かしはたった一つ、重心の位置にあります。
重心とは、その物体の重さが一点に集まっていると見なせる点のことです。形が単純な物なら真ん中あたりにありますが、やじろべえのように腕が伸びた形では、物体の外側の空中に重心ができることがあります。ドーナツの重心が穴の中にあるのと同じで、重心は必ずしも物体そのものの上にあるとは限りません。
やじろべえをよく見ると、左右の腕が支点(指に乗っている点)より低い位置まで垂れ下がり、その先に重りがついています。このため、本体と両腕を合わせた全体の重心は、支点よりも下に来ます。
ここがポイントです。やじろべえが傾くと、下がっていた重心は持ち上がる方向に動きます。物体には重心がなるべく低い位置に行こうとする性質があるので、持ち上げられた重心は元の低い位置に戻ろうとします。つまり、傾けば傾くほど「戻る力」が生まれるのです。これを安定なつり合いと呼びます。
逆に言うと、腕が上向きに反っていて重心が支点より高いやじろべえは作れません。傾いた瞬間に重心がさらに下がる方向へ動いてしまい、そのまま倒れてしまいます。
底が丸く、底の部分に重りが入っています。倒そうとすると、丸い底が転がって重心が持ち上がるため、手を離せば重心が最も低くなる直立姿勢に戻ります。「七転び八起き」の縁起物は、重心の物理で起き上がっていたのです。
綱渡りで使う長い棒は、両端が下にしなっています。棒の先端が下がることで演者と棒を合わせた重心が下がり、やじろべえと同じ原理で体が安定しやすくなります。
今度は逆の実験です。鉛筆の先を指に乗せて立ててみると、ほんの一瞬でも難しいことがわかります。鉛筆は重心が支点(指との接点)よりずっと上にあるからです。
この状態では、ほんのわずかでも傾くと重心が下がる方向に動き、傾きはどんどん大きくなります。戻る力が働かず、崩れる力だけが働く——これが不安定なつり合いです。同じ「つり合い」でも、重心が支点の下にあるか上にあるかで、揺らしたときの運命が正反対になります。
やじろべえを自分で作るときは、この記事の内容がそのまま設計図になります。腕を長く、深く垂らし、重りを重くするほど重心が下がり、多少雑に作っても倒れない、よく揺れるやじろべえになります。